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東京地方裁判所 昭和51年(手ワ)3670号 判決 1977年5月18日

原告 木田建設株式会社

右代表者代表取締役 木田雅行

右訴訟代理人弁護士 高木義明

同 鈴木隆

同 小林正憲

被告 シオン電機株式会社

右代表者代表取締役 並木新之助

被告 並木不二夫

右両名訴訟代理人弁護士 垣鍔繁

森本清一

主文

被告シオン電機株式会社は原告に対し金二〇〇万円及び昭和五一年八月七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告の被告並木不二夫に対する本件訴を却下する訴訟費用は、原告と被告シオン電機株式会社との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告並木不二夫との間においては全部原告の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分に限り仮に執行することができ、被告シオン電機株式会社が金五〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

一  請求の趣旨

被告らは各自原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和五一年八月七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  被告並木不二夫(以下被告並木という)の本案前の申立及び本案前の抗弁

1  原告の被告並木に対する本件訴を却下する。

2(一)  被告並木は他三名と共同して、原告に対し仮称並木マンションの建築工事を請負わせたが、被告及び他三名は原告との間に、工事請負契約約款二九条により、右工事請負契約について紛争が生じたときは、当事者の双方または一方から相手方の承認する第三者を選んで、これに紛争の解決を依頼するか、または建設業法による建設工事紛争審査会のあっせんもしくは調停に付することとし、これによって紛争解決の見込みがないときは、建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に付する旨の仲裁契約を締結した。

(二)  本件約束手形は、右工事請負代金の一部の支払として、被告並木から原告に裏書譲渡されたものであるが、右工事には後記本案の抗弁欄記載のとおり多数の瑕疵があり、被告並木は瑕疵修補請求権を有するため本件手形金の支払を拒絶しているのであり、結局、本件手形金請求は請負契約についての紛争というべきであり、原告の被告並木に対する本訴は右仲裁契約に反し不適であるから却下されるべきである。

三  本案前の抗弁に対する答弁

2(一)項は認める。2(二)項中本件手形が工事代金の支払として裏書譲渡されたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

四  被告らの請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

五  請求原因

1  原告は裏書の連続する別紙手形目録記載の約束手形一通を所持する。

2  被告シオン電機株式会社(以下被告会社という)は右手形を被告並木に振出し、被告並木は拒絶証書作成義務を免除したうえ、右手形を被裏書人白地で原告に裏書譲渡した。

3  右手形は、支払呈示期間内に支払場所に呈示されたが、その支払を拒絶された。

4  よって、被告らに対し、それぞれ手形金と満期である昭和五一年八月七日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

六  被告らの請求原因に対する答弁

請求原因1項ないし3項は認める。4項は争う。

七  被告らの抗弁

1  被告並木他三名は共同して、昭和五〇年一〇月二一日、原告との間で、東京都世田谷区所在の仮称並木マンションの新築工事及びその附帯設備工事を原告に請負わせる旨の請負契約を締結した。

2  原告は右工事を終了させたが、右工事には別紙不良工事一覧表記載のとおり、多数の未完成工事部分及び隠れたる瑕疵が存在し、右追加工事及び瑕疵の補修工事に要する費用は合計金一二、三二五、一三九円であり、被告並木他三名は原告に対し右金員の瑕疵修補請求権を有し、右請求権は不可分債権である。

3  被告並木は、本件第二回口頭弁論期日(昭和五二年四月二二日)において右修補請求権と本件手形金とを対当額で相殺する旨の意思表示をなした。

4  よって、被告並木の原告に対する本件手形金債務は相殺により消滅し、被告並木に対する請求は失当であるとともに、原告の本件手形金請求権が消滅した以上、原告の被告会社に対する請求も失当である。

八  抗弁に対する答弁

抗弁1、3項は認める。2項は不知あるいは否認する。4項は争う。

九  証拠《省略》

理由

一  被告並木の本案前の申立及び本案前の抗弁

原告と被告並木との間には「被告並木の本案前の申立及び本案前の抗弁」欄2(一)項の記載のような工事請負契約が締結され、同欄記載のような内容の工事請負契約約款二九条により仲裁契約が締結されたこと、2(二)項中、本件手形が右工事代金の一部の支払として、被告並木から原告へ裏書譲渡されたことは当事者間に争いなく、被告並木が、本件工事には多数の瑕疵があり、被告並木は原告に対し瑕疵修補請求権を有するとして、本件手形金の支払を拒んでいることは被告の主張及び弁論の全趣旨から明らかである。

以上の事実によれば、本件手形金請求はその工事の瑕疵の存在を理由に支払を拒絶されているのであるから、結局、本件請負契約についての紛争に該るというべきであり、原告と被告並木は前記仲裁契約に拘束され、本件手形金請求は仲裁により解決されるべきである。

ところで、工事請負契約約款二九条の条項をもって仲裁契約が成立したといえるかどうかについては議論のあるところであり、また、右のような条項によって、工事請負契約から生じる一切の紛争について裁判権を奪うことの当否については法政策的見地から検討の要があるが、本件においては、原告が仲裁契約の成立を認めているところであるから、結局、原告の被告並木に対する本訴請求は訴の利益が無く、本件訴は却下されるべきである。

二  被告会社に対する請求

原告と被告会社との間に請求原因1項ないし3項の各事実は争いない。被告会社の抗弁1項及び3項は原告と被告会社との間で争いない。

被告会社は、本件工事には未完成部分及び瑕疵が多数存在し、被告並木は原告に対し金一二、三二五、一三九円の瑕疵修補請求権を有する旨主張し、《証拠省略》によれば、原告の建築した建物には瑕疵が存し被告並木が原告に対し瑕疵修補請求権を有するのではないかとも窺われるが、右各証拠のみでは、未完成部分及び瑕疵の正確な部位、程度、修補に要する工事の程度およびその正確な費用等を立証するに足りず、結局、被告会社の抗弁は、これを認めるに足りる証拠がないといわざるを得ず、抗弁は理由がない。

よって、原告の被告会社に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告並木に対する本訴請求は不適法であるからこれを却下し、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎潮)

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